正直言ってこの写真を出してよいものかかなり悩んだのだが、これも私の生きてきた道のりの一つという気持ちで今回初めて公開することにした。
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●ダイムラーベンツ博物館の天皇御料車
昭和天皇がご使用になられていたメルセデスベンツ タイプ770。通称グロッサーメルセデスと呼ばれるモデルである。戦後昭和天皇がご移動の際にはこのクルマが頻繁に使われ、私も現物は見たことがなかったが、テレビなどでは拝見していた。それがただ1台オリジナルで残ったモデルがダイムラーベンツ博物館に展示されている。1970年代後半に自動車博物館シリーズの本を刊行するために当時のダイムラーベンツ博物館を訪れ、初めて対面した。
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●皇室ナンバーはもちろん取り外されている
まさに威風堂々のスタイルを持った荘厳な雰囲気を醸し出したモデルだった。今はどうか知らないが、当時は隣にウィルヘルム2世が使っていた同じタイプ770のモデルと並べて置かれていた。ただし、確かカイザー・ウィルヘルム2世のクルマはスーパーチャージャー付きで、昭和天皇のクルマはスーパーチャージャーなしと記憶する。
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●左はカイザーウィルヘルム2世のグロッサ―。そして右が昭和天皇のグロッサーだ。
宮内庁がこのクルマをドイツ本国に戻すにあたり、菊のご紋はフェイクが用いられ、花弁の数が異なるという話を聞いたことがあるが、数えてこなかったし、写真からは確認する術はないからわからない。
そして1990年代になって、とあるムック本の取材で再びこのダイムラーベンツ博物館を訪れ、いつも通り(もう何度訪れたかわからないので)天皇御料車に対面してきた。この時は博物館が休館日だったこともあり、ダイムラーのお目付け役が同行していたのだが、その時に限って何故か、「室内の写真を撮ることは可能か?」と聞いてみると、「OK」と言っていとも簡単にリアドアを開けてくれてめでたく玉座と対面した。実はこの時の写真がどうしても見つからず、極めて残念である。中を見るだけでもすごいことだったのに何故かその時はものはついでとばかり、「乗っても大丈夫か?」と聞くと、これもあっさりとOK。それが下の写真である。一緒に同行した編集者と御料車の豪華西陣織の後部座席に収まってしまった。私の座る側にはリモコンのようなものが置いてあり、そこには「右に曲がれ」、「左に曲がれ」、「もっとゆっくり」、「もっと速く」などと書かれたボタンがあって、恐らくはドライバーズシートにその情報を飛ばす仕組みになっているのだと思う。天皇陛下御自身がそうした操作をやるとは思えないので、私が座った側は本当の玉座ではないらしいので少し気が楽である。
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●御料車の後部座席に収まる二人。私の右前にぶら下がっているのがドライバー席と交信するためのリモコンのようなもの
きっと今は決して開くことはないであろうリアドアである。今から30年近く前はまだベンツもおおらかだったか、あるいは日本人の天皇陛下に対する思いが理解できなかったか、いずれにせよもう2度とないであろう体験であった。
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●ボディサイドの皇室ご紋は花弁の数が異なるといわれる。