自動車を運転するのは、スポーツカーだろうが、ミニバンだろうがそうは違いはない。しかし、個人的にはフォーミュラカーは別なような気がする。フォーミュラは過去に3度ほど乗ったことがある。そのうち1回(正確にはF3000とF3の2台)はホンダのテストコースでいわゆる試乗。次はフォーミュラ・オペル(こいつはかなり珍しい)。オペルの招待で、なんとニュルブルクリンクのニューコースを数周した。気温が低く、完熟走行をインストラクターについて行った後、フリー走行だったのだが、タイヤが冷えているのをわかっていながら1コーナーで見事にコースアウト。トラップにつかまり出られないかと思ったが、何とかコースに復帰して以後はドライブを楽しんだ。
●90年代半ば。歳はまだ40歳代だ。この時代は結構レースにのめり込んでいた。
そして最後は筑波で本格的なレース参戦だ。残念ながら、過去2回の走行は写真がない。しかし最後の筑波はちゃんと写真が残っている。しかも1戦だけの参戦ではなく2戦出場した。もっとも最新鋭のフォーミュラではなくいわゆるクラシック・フォーミュラである。乗ったのは確か90年代の半ばだっただろうか。プレ85フォーミュラレースと銘打った、1985年以前に作られたF3を中心にしたレース。やはり速いのはラルトなどのF3である。私が乗ったのはフォーミュラフォードと呼ばれるカテゴリーのクルマで、F3とはチューンが異なり、やはりストレートスピードはかなり差が付く。ただし、レースはフルウェットで本当ならばそれほど大きな差がつかないと思っていた。事実何台かのF3はカモにできたのだから楽しかった。
●フルウェットの筑波。写真では大したことないように見えるが、前にマシンがいるとクルマは全く見えない。
普通のクルマと何が違うかというと、一つは目線。ほぼ路面から数十センチのところに目線があって、それこそフロントタイヤとさほど違わない高さにいる。もう一つはレーシングカー特有ではあるが、やはりステアリングのクィックさとそれに伴うクルマの挙動が、そんじょそこらのスポーツカーや、ましてやミニバンとはまるで違うのである。だから普通のクルマのつもりでステアリングを切ると大変な目に合う。それにアクセルのレスポンスがまるで違う。ホンダで乗せて頂いたF3では、コーナーの出口で加速しようとしたら、アクセルを踏み過ぎて見事にスピンした。それくらいナーバスなのだ。
●目線は人の股下であることがわかるだろう。とにかく低い。
さて、そのプレ85フォーミュラレース。会員制のクラブでオーナーは皆さんクルマを好みのデザインに仕上げている。だから、パドックはさながら、ん?F1?と思うほど。マルボロマクラーレン風がいたり、フェラーリ風、それにウィリアムズ風などがいてそれは楽しい。私が乗ったマシンはヴァンディーメンという名のフォーミュラマシンで、RF82と呼ばれる1982年のシーズンに作られたマシン。オーナーから「絶対に壊すな!」という指令が飛んでいた。何故かというとそのマシンはイギリスであのアイルトン・セナが乗った個体だからだという。正直ビビった。果たしで真偽のほどは不明だが、仮にそうでなくても名誉なことである。
●ウィリアムズ風 ●マクラーレン風
●フェラーリ風 ●これがセナのマシンそのもの。確かに同じマシンだ。
●実際にセナが乗っている風景。本当にこのマシンに乗ったのだとしたら…
結果は2度走って2度ともフォーミュラフォードクラスの2位だった。どしゃぶりの雨でもトップクラスは1分10秒を切る程度のスピードで走る。壊すなと言われたマシンで雨の中筑波のダンロップブリッジ下で大スピンを喫し、あと50センチほどでガードレールにキスをするところだったが、無事何事もなく復帰して無傷で返すことができた。
●中央のゼッケン3番が私のマシン
●もしかしたら、セナが見ていたかもしれない景色
●因みに一番手前のステッカーはセナのマシンにも同じものが貼ってある。